AIにコードを書いてもらい、テストも通った。差分も大きくない。ここまで確認できると、プルリクエストを取り込んでよさそうに見えます。
ただし、動くこと、テストが通ること、後日別の人が直せることは別です。
AI生成コードには、依頼や仕様にない動きが、もっともらしい実装として入ることがあります。問題はAIが意図的に隠したことではありません。人が決めていない前提と、すでに決めた前提が、差分だけでは見分けにくいことです。
この記事では、AI生成コードをチームへ取り込む前に、プルリクエストへ何を残すかを整理します。翌日のレビューから使える「AIコード受け取り票」の記入例も紹介します。
コードだけでは、判断の経路が残らない
差分を読めば「どう動くか」は分かっても、「なぜその動きにしたか」まで分かるとは限りません。例えば料金計算で日曜日を日数に含めないコードが生成され、テストもその条件で通っていたとしても、次は別に確認が必要です。
- 日曜日を除くことは、業務部門が決めたルールか
- 依頼に書かれていないため、AIが補った動きか
- 日曜営業の拠点にも同じ条件を使ってよいか
- 間違いが分かったとき、どこを止めてどう戻すか
確認したいのは、AIが正しいか間違っているかだけではありません。チームとして、その変更をどの根拠で受け取るかです。
プルリクエストへ残す5項目
Book30『そのコード、AIに書かせたあと直せますか?』では、コードと一緒に残す情報を五つに分けています。
1.目的──何のための変更か
チケット番号だけでなく、誰のどの仕事をどう変えるのかを業務の言葉で書きます。
2.前提──何が決まっていて、何をAIが補ったか
人が決めた前提には仕様書・議事録・チケットなど根拠の場所を添えます。依頼や仕様にないのにコードへ入った動きは「AIが補った前提」として分けます。
3.影響──差分の外へどこまで届くか
画面、帳票、請求、通知、外部連携、既存データなど、結果が届く先を確認します。
4.証拠──何を確かめ、何を確かめていないか
実行したテスト、使った条件、期待結果、未確認の条件を残します。「テスト済み」だけでは再現できません。
5.修復──止め方・戻し方と最初に見る場所
機能を止める方法、変更を戻す方法、すでに作られたデータの扱い、相談先を書きます。
AIコード受け取り票の記入例
プルリクエストの説明欄へ、次のように置けます。例は架空です。
対象の変更
延長料金の自動計算を追加目的
返却時の手計算を、確認画面への自動表示へ変える前提
決めた前提:一日単位で計算する(料金規程4-2)
AIが補った前提:定休日は延長日数に含めない。規程に記載がないため確認待ち影響
返却確認画面、請求候補データ、料金明細CSV。確定済み請求には適用しない証拠
平日をまたぐ1日・3日の延長を確認。月またぎと日曜営業拠点は未確認修復
自動計算を停止して手計算へ戻す。最初に料金計算サービスと請求候補ログを確認する
未決の前提が見つかったからといって、すべての変更を止めるとは限りません。影響が限定され、未決であることを受け入れ、止め方・戻し方があるなら、その条件を残して判断します。
作る人と受け取る人の役割を分ける
まず、AIを使って変更を作った人が票を下書きします。受け取る人はコードと票を見比べ、次の三点を確かめます。
- これは、どこで決まったか
- 確かめていないことは何か
- 明日止めるなら、どこから戻すか
質問は作った人を責めるためではありません。決めたこと、まだ決めていないこと、問題が起きたときの戻り道を共有するためです。
変更の大きさに合わせて欄を増やす
影響が限定された小さな修正なら、まず「目的」と「証拠」の二欄から試せます。
一方で、お金、個人情報、権限、社外への通知やデータ送信に関わる処理では五項目を確認します。機密情報・個人情報・顧客情報を、利用を許可されていないAIへ入力しないことも前提です。
説明できることと、正しいことは別
受け取り票が書けても、コードの正しさが保証されるわけではありません。説明は確認場所を共有するためのものです。正しさはテスト、レビュー、仕様、業務ルール、実際の利用条件との照合で別に確かめます。AIが生成した説明も、そのまま根拠にはしません。
次のプルリクエストで使う一言
この変更の目的と、AIが補った前提、確かめていないこと、止め方・戻し方は、どこに残っていますか?
小さな変更なら目的と証拠から始め、影響が大きい処理では五項目をそろえる。コードを速く作ることと、後日別の人が直せる状態にすることを、別の仕事として扱うのが第一歩です。
関連する困りごとから選ぶ
- AIの出力を使う前の確認:Book09『その出力、そのまま出していいですか?』
- テストと業務上の確認を分ける:Book13『そのテスト、通ったから大丈夫ですか?』
- 次の人が動ける引き継ぎ:Book17『その引き継ぎ、次の人は動けますか?』
- AIへ任せる範囲:Book26『そのAI、どこまで任せていいですか?』
- AI時代の役割と学び方:Book28『IT業界で長く働くための、小さな技術』
Book30では、五項目を一冊の流れで整理し、作った人と受け取る人が取り込み前に何を確かめるかを解説しています。
具体的な場面から読みたい方は、note記事「三か月後、日曜を数えない理由が分からなくなった」もご覧ください。

