プロジェクトの振り返りで、原因欄に「担当者の確認不足」と書かれることがあります。
間違いとは限りません。実際に、確認できていなかったことはあるでしょう。けれど、それだけで閉じると、次の案件で変わるのは担当者の心がけだけです。確認する時間、情報が届く経路、役割、判断基準が同じなら、別の人が同じところで迷うかもしれません。
振り返りの目的は、誰かに深く反省してもらうことではありません。終わった案件で起きたことを、次の案件の会議・計画・役割・確認条件・引き継ぎへ渡すことです。
約40件の更新案内が遅れた架空の例
例えば、保守契約管理システムを刷新した架空のプロジェクトを考えます。
新システムへの切り替え後、計画どおりに旧システムを停止しました。各部署の窓口にも影響を照会し、「影響なし」という回答を得ています。
ところが、営業推進部へ送られていた更新期限の一覧も、旧システムから出力されていました。一覧が止まり、約40件の更新案内が遅れます。
停止作業の担当者だけを見れば、「一覧への影響を確認できなかった」と言えます。しかし、振り返りで見たいのは、その一歩前です。
- 影響を確認する期間は十分だったか
- 実際の出力物と利用者を調べる役割は決まっていたか
- 部署の窓口が「影響なし」と答えれば停止できる基準だったか
- 受入テストで残った質問は、誰へ渡され、どこで止まったか
- 一覧が止まった影響は、どの部署のどの仕事へ届いたか
これらは、担当者の性格を評価する質問ではありません。そのときの判断を生んだ情報・時間・役割・基準・慣習を確認する質問です。
「確認不足」は、評価であって記録ではない
「確認不足」「連携不足」「認識不足」は、短くまとめやすい言葉です。しかし、次の案件の担当者は、それだけでは何を変えればよいか分かりません。
確認の対象が分からなかったのか。確認する相手が決まっていなかったのか。回答を待つ時間が足りなかったのか。未回答でも進められる基準だったのか。同じ「確認不足」でも、変える場所は異なります。
そこで、振り返りを五つの記録に分けます。
振り返りの五つの記録
1.事実──何が起きたか
評価を入れず、確認できる出来事を書きます。
旧システム停止後、営業推進部への更新期限一覧が出力されず、約40件の更新案内が予定日より遅れた。
「担当者が見落とした」ではなく、何が、いつ、どこで止まり、どの結果になったかへ戻します。記録にないことは、推測で事実にしません。
2.判断──その時点で何を選んだか
結果を知った今の視点ではなく、その時点で選んだことを記録します。
各部署の窓口から「影響なし」の回答がそろったため、旧システムの停止条件を満たしたと判断した。
判断を書き残すのは、誰かを責めるためではありません。結果と選択を分け、当時どこまで分かっていたかをたどれるようにするためです。
3.条件──なぜ妥当に見えたか
判断の周りにあった条件を確認します。
影響照会の宛先は各部署の窓口だった。実際の出力物と利用者を洗い出す担当は決まっていなかった。未解決の質問があっても、窓口回答がそろえば停止判断へ進める運用だった。
条件には、情報・時間・役割・基準・慣習があります。「普通は気づくはず」と考える前に、その人が見られた情報と、使っていた基準へ戻ります。
4.影響──誰の仕事に届いたか
システムの出来事だけでなく、その結果が届いた仕事を確認します。
営業推進部が更新対象を把握できず、案内準備が遅れた。営業担当者は、個別に契約情報を確認する作業が増えた。
影響を記録すると、次の案件で誰を確認に加える必要があるかが見えやすくなります。
5.変更──次の案件で何を一つ変えるか
「確認を徹底する」ではなく、会議・計画・役割・確認条件・引き継ぎのどこを変えるかを書きます。
旧システムの停止判定条件に、「出力物と、その利用者の確認が完了していること」を追加する。
変更をたくさん並べると、どれも次の計画へ入らないことがあります。まずは影響が大きく、次の案件で確かめられるものを一つ選びます。
変更を入れたことと、反映を確かめることは別
振り返り資料へ改善策を書いた時点では、次の案件はまだ変わっていません。
次の案件の計画書や会議資料へ変更を入れる人、期限、使う場面を決めます。さらに、実際に反映されたかを確かめる人と時期も残します。
- 変更:停止判定条件へ「出力物と利用者の確認」を追加する
- 使う場面:次案件の移行計画レビューと停止判定会議
- 変更を入れる人・期限:次案件のPMが移行計画の初版作成時に入れる
- 反映を確かめる人・時期:PMOが移行計画レビュー時に確認する
- 確認の結果:次の案件で記入する
最後の欄は、振り返りの時点では空欄です。変更を書いたことと、その変更が次の案件で使われたことを混同しないためです。
次の振り返りで使える問い
「確認不足」と書きそうになったら、次の一言を加えてみてください。
その判断を生んだ情報・時間・役割・基準は、どうなっていましたか。次の案件では、何を一つ変えますか。
担当者の説明を疑うための質問ではありません。個人の注意力だけに任せず、次の案件で扱える変更へ置き換えるための質問です。
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- 会議で使う数字の定義と、判断に使える範囲を確かめたい → Book27『その進捗率、何を数えた数字ですか?』
Book29『その振り返り、誰かを反省させる会ですか?』では、五つの記録を一冊の流れで整理し、次の案件へ渡す「振り返り接続シート」の使い方まで紹介しています。
具体的な出来事から読みたい方は、note記事「更新案内が40件遅れた。報告書には「確認不足」とだけ残った」へ。記録の置き場所と次の案件へ渡す欄を確認したい方は、「振り返りは、終わった案件のフォルダにしまうと使われない|次の案件へ渡す3つの欄」も参考にしてください。

